第21回
出し惜しみしない
昨年、ある雑誌に載っていた有名な脚本家のエッセーを読んで思わず共感したことがありました。
その方が、先輩である同じ脚本家の方からアドバイスされた『出し惜しみしない』という生き方です。
その脚本家の方々はお二人ともNHK大河ドラマの脚本を手がけたことがあり、一年間毎週放送される、とてつもなく長いお話を生み出すのに、とにかく思いついたこと、書きたいことは後回しにせずに書くこと、これはそのうちに、ということは絶対にしない、ということです。
そうやって出し惜しみしなければ、後で窮しても必ずまた開けるというのです。
私の教室では一年半に1回、ほとんどの生徒が参加する発表会があります。
大きな舞台でそれまでの練習成果を披露する大イベントなのですが、生徒たちそれぞれのグループの踊りを振付し構成し、衣裳や照明などのプランを考え、本番までのスケジュールを調整し、間近になると想像を絶する忙しさになります。
生徒たちの発表の場といえども、私の作品の発表の場でもあり、自分自身の結果が如実に表現される舞台ともなります。
そんな中、私はいつも生徒にも自分にもついつい付加をかけてしまう傾向があるようで、少々大変そうでもその日までには何とかなる、目標は高いほうがいいと、限界ギリギリまでのことをしてしまい、その舞台が終わると、すべての力を出しきり、頭の中が空っぽになってしまいます。
その直後は、もう振付どころか次の発表会なんて考えられないくらい無の状態になり、これが限界と思ってしまうのです。
ところが不思議なことに、これを再び繰り返し、何とか次の発表会もむかえ、これをかれこれ20年ほど続けています。
充電器は空っぽになってから充電したほうが持ちがいいといいますが、人間も同じなのかもしれません。
思い浮かんだアイデアや知恵をどんなに使い、空っぽになっても、またそれを充たそうと力が湧き、やがて原動力となり次へとつながっていくのです。
それは普段の生活にも同じことが言えるでしょう。
そのうちに、と先延ばしにしていると本当にできなくなってしまうことがあります。
できることなら、思い立ったらすぐに行動した方が、その時大変であっても必ず次へと道が開けてくるのです。
あの時こうしておけば良かったと思っても逆戻りはできないのです。 『出し惜しみしないこと』は人間の生き方に通ずるのではないでしょうか。
ちょうど、この言葉に出会った直後に、この『朝の随想』の担当の方にも「お話したいことから書いてください。これはあとで、というと後悔します。」とアドバイスをいただきました。
先にも話したように、私の性格上、思いついたらすぐなので、出し惜しみはしていないつもりなのですが、まだまだ人生経験が足りないようで、常に次へと行き詰まっております。
しかし、窮しても必ず道が開けることを信じ、少ない経験をもとに知識をふりしぼり、あとの残りを頑張りたいと思います。