第14回
大器晩成
趣味は何ですか?と聞かれると、子どもの頃からの唯一の趣味だったダンスが職業となった為、答えに困ります。
強いて言えば、映画や舞台鑑賞が好きです。
最近は新潟市内にも映画館が増え、行きやすくなりました。
レンタルビデオなどで気軽に家でも映画が鑑賞できるようになりましたが、私は映画館でストーリーにどっぷりと浸り、観るのが好きです。
私の父は若い頃、映画を観に行くのが唯一の娯楽だったそうで、遠く離れた映画館にせっせと通ったそうです。
それも、映画好きな同年代の甥の影響で、ひそかに映画俳優に憧れていたこともあり、東京の俳優養成所にまで進みました。
しかし、下積み時代の生活苦で挫折し、泣く泣く新潟に戻ったとのことです。 同じく父の兄である、舞台鑑賞好きの叔父がいて、私は東京にいた頃色々な舞台を観に連れて行ってもらいました。
ある日、父の映画好きに影響を与えていた甥の息子が、俳優の卵で、所属している劇団のお芝居に出るから観に行こうと、新宿の小さな劇場に一緒に観に行った時がありました。
親戚とはいえその日が初対面の彼は、まだ無名で、脇役として演じていたのですが、背が高くなかなかの美男子で、とても輝いて見えました。
お芝居の内容はほとんど頭に入らず、私は父の俳優への夢もこんな感じだったのかな、と思いながら、台詞は少ないものの、一生懸命演技している彼に見入ってしまいました。
叔父はその時、「彼は劇団員として20代半ばにもなりながらなかなか芽が出ないけど、きっと大器晩成型なのだよ。
うちの親戚は皆、大器晩成型だからあなたも辛抱して頑張りなさい。」と言ってくれました。
きっと、まだ先の見えないフラメンコへの不安を抱えていた私への励ましとして、こうやって夢に向かって頑張っている身内がいるのだよ、と叔父が連れてきてくれたのでしょう。
父が果たすことのできなかった芸の道で生きていきたい、そして同じく芸の道に真摯に向かっている彼の姿に勇気をもらいました。
叔父の言うとおり、あの時脇役だった無名の彼は少しずつ知名度を上げ、やがてNHK大河ドラマの主役の座を得るまでになりました。
それが、あの独眼竜正宗役の、渡辺謙さんです。
その後、色々な苦難な道はあったものの、今や日本を代表する俳優となりました。
親戚とはいえ、もう遠い別世界の存在のスターとなってしまいましたが、テレビや映画に出演しているのを見るとあの頃のことを思い出し、胸が熱くなります。
そして何より喜んでいるのは、若き頃父と映画に夢中になっていた謙さんのお父さんでしょう。
彼を世界に知らしめた映画『ラストサムライ』を映画館に観に行った時は、涙が止まりませんでした。
その時、もう亡くなっていた父、そして謙さんを一生懸命応援していた叔父にこの映画を見せてあげたかった思いと、それまでの彼の努力を思っただけで胸がいっぱいになりました。
今となっては私なんぞハリウッド俳優とはとうてい比べものになりませんが、大器晩成の家系を信じ、芸の道にこれからも精進していきたいと思います。