第9回
国境なき友情
子どもの頃、外国人を見かけると妙に緊張してドキドキしたことを思い出します。
今では留学や仕事や結婚など色々な形で日本に移住している人や観光客も増えていて、外国人を見かけることは珍しくも何ともなくなりました。
しかし、自らが海外へ出向き、その国で自分が外国人として見られること、国籍の違う人と接することなど想像がつきませんでした。
私のフラメンコの師匠は、セビリアで有名なフラメンコ舞踊家であるホセ・ガルバンという男の先生です。
踊りというと女性的なイメージがありますが、フラメンコの大御所は男性舞踊家にも多く、スペインでは有名な男性ダンサーがたくさん存在します。
スペインへ行き、最初に見学に行った先がホセの教室で、「他を見学してから決めたい。」と上手く伝える語学力がなかったのと、彼のインパクトの強さに惹きつけられ、即座に入門しました。
本場のフラメンコダンサー、ましてや男性となれば想像しただけでドキドキしそうですが、現実はお腹の出っ張った、人の良さそうな、どこにでもいそうなメタボおじさんです。
しかし、いざ踊りだすと凄まじいスピードで足が動き、切れのある身のこなし、そしてなんと言っても内から湧き出るエネルギーと表現力は、私がそれまで日本で学んでいたフラメンコが一気に打ち消される勢いでした。
やはりフラメンコは本場で学ぶべきものだと再認識させられ、初心に戻りレッスンを受けはじめました。
ホセの教室には地元の子どもたちがたくさんレッスンに通ってくるので、私はその子どもたちに混じり、同じ目の高さでフラメンコを学びました。
そんな中、ホセや子どもたちの父兄には随分お世話になり、身の回りのことを教えてくれたり、食事の準備を手伝ってくれたりと、子どものように甘えさせてもらいました。
おかげで、早くに現地の生活に馴染むことができ、地元の料理も覚えることができ、そして何と言っても外国人である私を家族のように扱ってくれたことは、とても貴重な経験であり、本当にありがたいことでした。
ホセは「フラメンコに国境はない。」と言い、外国人の生徒にも分け隔てなく接し、スペインの生徒たちと同じように日本人の私にも熱心に指導してくれました。
遠く離れた異国で、子どもの頃抱いた外国人恐怖症は、一気に払拭され、どんなに遠く離れていて、国籍が違っても、心が通い合い、信頼でき、友情が芽生え、それが生涯の宝となることを知りました。
最初のスペイン滞在を終え日本に帰るとき、一緒にフラメンコを学んだ子どもたちやその家族に見送られ、たくさんの涙を流しました。
別れは悲しい、でも出会いは素晴らしい、それは国境なき友情へのかけがえのない涙でした。